薬を使った背中の痛みの治療法

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背中の痛みの対策と予防 解剖図イラスト:背中の骨・筋肉背中の痛みの体験談

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薬を用いる治療法『薬物療法』について

薬物療法とは、薬の持つ様々な効果・効能によって、現在生じている痛みを、一時的に和らげたり解消したりする治療法です。

使用される薬剤の種類や形状は様々で、痛みの原因や症状に応じて効果的な薬を選び患者に投与します。
口から飲み込む「内服薬」と、皮膚に塗り貼りするシップや軟膏(塗り薬)などの「外用薬」の大きく二つがあり、他にも薬の注射や点滴による方法もあります。

ここでは薬の種類ごとに、どういった症状に有効なのか、具体的な効果、長所と短所、副作用などを解説します。

<目 次>

  1. 薬の種類
  2. 神経ブロック療法について
  3. まとめ
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1.薬の種類

1-1.消炎鎮痛剤(しょうえんちんつうざい)

消炎鎮痛剤(抗炎症薬)とは、名前のとおり体の組織を損傷した際に起こる「炎症」を鎮めることで痛みを和らげる薬です。熱を下げる「解熱効果」を持つ薬もあります。

一般に痛み止めの薬という場合、この消炎鎮痛剤のことを指します。病院でも最初に処方されることが多い薬です。市販の薬でいえば「バファリン」や「ロキソニン」などが有名です。

どんな症状に効果的?

筋肉痛椎間板ヘルニアなど、筋肉・骨・椎間板といった組織の損傷による痛みに有効です。

鎮痛効果が現れれば、そうした組織の損傷による痛みであることがわかります。しかし神経の損傷やストレスによる痛みには効果がありあせん。消炎鎮痛薬を一定期間使用しても痛みが治まらないときは、筋肉や骨の損傷以外に原因があると考えて薬を変えていく必要があります。

成分

副作用が強めの「ステロイド」を含まない、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が主に使われます。
成分はセレコックス、ロキソニン、インドメタシン、ボルタレンなどです。その他、解熱作用もあるアセトアミフェン、オピオイド系の鎮痛薬(モルヒネなどの麻薬)、痛みを伝える神経の活動を抑える鎮痛薬ノイロトロピンなどがあります。

形状

薬剤の種類

  1. 内服薬(飲み薬)や座薬
    薬が腸から吸収され、痛みを抑える効果は最も大きく、特に"急な痛み"によく効きます。
    しかし胃や肝臓、腎臓などにかかる負担も大きめで、胃痛・胸焼けなどの胃腸障害、食欲不振などの副作用も出やすくなります。痛みや炎症がある時だけ飲むものであって、心配だから飲んでおくといった使い方はお勧めできません。ある程度落ち着いたら「痛い時だけ飲む」といった使い方をしましょう

  2. 外用薬(シップ、軟膏、クリーム、ローションなど)
    薬が皮膚から浸透して血管の中に入ります。内服薬ほど血管の中に入っていかないため痛みを抑える効果は劣りますが、その分、副作用は小さめで皮膚のかぶれなどが主です。それでも使いすぎると胃腸障害を起こすケースもあります。

    湿布(シップ)には患部を温めたり冷やす効果もあります。温シップと冷シップはどちらも筋肉の温度まで変える効果は小さいため、基本的にどちらを使ってもかまいません。快感が脳に伝わることで鎮痛作用が高まるため、気持ち良く感じられる方を使いましょう。
    しかしぎっくり腰のように急激に炎症が起きた時は患部を冷やすのが原則ですので、温シップは避けたほうがよいでしょう(参考:温熱療法)。一方、血行不良により慢性的な痛みが生じている場合には、トウガラシ成分(カプサイシン)の血流を増やす作用を期待して温シップを使ってみるのもよいでしょう

  3. 薬物注射
    神経ブロック療法の項目で解説しています
特徴の比較
  外用薬(シップ、軟膏など) 内服薬・座薬 薬物注射(神経ブロック)
種類 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs) 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs) 麻酔薬、ステロイド系抗炎症薬
痛みを抑える効果 小〜中程度 中程度〜大きい 大きい〜かなり大きい
主な効能 ・炎症を抑え痛みを和らげる
・患部を温めて血行を良くする
・炎症を抑え痛みを和らげる
・解熱作用
・神経の痛みに対する感覚を鈍くする
・神経を遮断して痛みを抑える
・運動神経を遮断して筋肉の緊張をほぐしたり血行を良くする
副作用の大きさ ほとんど無いか小さい 中程度〜大きい 麻酔薬は小さめ。ステロイド薬は大きい
主な副作用 皮膚のかぶれ 胃痛・胸焼けなどの胃腸障害、食欲不振 頭痛、めまい、吐き気、しびれ、脱力感、排尿障害など
長所 ・塗り貼りだけで済み、手軽に使える
・副作用が少なく症状も軽い
・長期間使用できる
・多くが市販されており、安価に手に入りやすい
・外用薬に比べて鎮痛効果が高く、全身に作用する(座薬は内服薬より効き目が早い)
・飲むだけなので手軽に使える
・鎮痛効果が非常に高い
・様々な痛みに効く
・異常のある神経を発見できる
短所 内服薬に比べて鎮痛効果は弱く、効果は塗布した部分に限られる ・副作用が比較的起こりやすい
・服用量や使用期間に注意が必要
・内服薬などに比べて手間とお金がかかる
・一部の手法は体に大きな負担がかかる
1-2.血流改善薬

血液の流れが良い正常な血管

血管を拡張して血流を良くする作用を持つ「プロスタグランジン製剤」という薬剤です。
主に軽度〜中程度の脊柱管狭窄症の治療で用いられ、神経の血流を改善することで症状を和らげます。

脊柱管狭窄症は、神経の通り道である脊柱管が狭くなる障害で、神経に栄養を供給する血管も圧迫されて血液の流れが悪くなることで足腰〜背中のしびれや痛み、こり、冷えなどが起こります。
薬の作用によって神経の栄養血管の血流量を増やし、こうした症状を軽くします。

成分

リマプロスト、アルファデクスなど。

副作用

軽度の顔のほてり、動悸、かゆみ、頭痛、腹痛、吐き気、下痢など。また出血量の増加や重い肝臓障害が見られることもああります。子宮を収縮させる作用もあるため、妊娠中の女性は服用できません。

1-3.筋弛緩剤(きんしかんざい)

中枢神経系に働きかけて筋肉の緊張を和らげる薬です。

腰や背中に負担がかかると、筋肉が疲労して固くこわばり、鈍い痛みや重さ、だるさ、コリなどの症状が現れます。筋弛緩薬によって筋肉の緊張をほぐすことで、こうした症状を和らげ痛みを軽くすることができます。

一般に炎症を抑える消炎鎮痛剤(痛み止め)でも痛みが治まらない時に処方され、消炎鎮痛剤と併用するとより効果が上がります。

筋肉をほぐし軟らかくする

どんな症状に効果的?

筋肉痛などの筋肉疲労による痛み。特にぎっくり腰のような急性の痛みに効果的です。

成分

クロルフェネシンカルバミン酸エステル(商品名:リンラキサーなど)、チザニジン、エペリゾンなど。

副作用

眠気、ふらつき、めまい、倦怠感・脱力感、下痢・便秘、腹痛、胃の不快感、食欲不振など。
薬の種類によっては血圧を下げる作用もあるので、血圧を下げる薬を飲んでいる人は急激な血圧低下に注意が必要です。

1-4.抗うつ薬、抗てんかん薬

精神的ストレスが原因で発生する痛みに対して使われることが多い薬剤ですが、神経痛に対して効果的なものもあります。

背中の痛みは筋肉の損傷によるものが多いため、それに効果的な「消炎鎮痛剤」や「筋弛緩薬」が最初に処方されますが、効果が小さければ神経の損傷による痛みの可能性を考え、「抗てんかん薬」や「抗うつ薬」が処方されることがあります。

抗てんかん薬

中枢神経系に作用し、神経の障害による痛み(神経痛)を抑えます。

特に突発的な激しい痛みによく効きますが、痛みを抑えるメカニズムは良く分かっていません。
消炎鎮痛剤による効果があまりない場合、骨や筋肉ではなく神経に障害があると見て適応されます。プレガバリン(一般名リリカ)という薬が良く用いられます。

抗うつ薬

主に鬱(うつ)病の治療に用いられる薬ですが、痛み止めの効果もあります。精神的なストレスから生じる痛みや、神経への刺激による痛み(神経痛)によく効きます。

精神的なストレスが蓄積すると、体の機能を調整する「自律神経」や、体に備わる「痛みをブロックする機能(下行性疼痛抑制系)」の働きが弱まり、痛みを発生させます。抗うつ薬にはこうした機能を活性化する働きがあり、ストレスによる痛みを和らげます。神経の活動を抑制する作用も持つため、神経性の痛みや手術による痛みにも良く効きます。そのほか安眠効果もあります。

成分

抗てんかん薬:カルバマゼピン、フェニトインなど   抗うつ薬:アミトリプチリン、イミプラミンなど

副作用

抗てんかん薬:・眠気、発疹、不整脈、肝臓や腎臓の障害、光への過敏症、リンパ球の異常など
抗うつ薬:中枢神経系、循環器系、肝臓の障害、口内の乾燥、眠気、便秘など

1-5.ビタミン剤

ビタミン錠剤・サプリメント

ビタミンの中には、筋肉や神経に作用して痛みを和らげる作用を持つものがあります。

ビタミンB1、B6、B12

ビタミンB1には疲労回復効果があり、筋肉の疲れによる痛み(鈍い痛み、コリや張りなど)を和らげる効果が期待できます。市販薬ではアリナミンなどが有名です。

ビタミンB6やB12は神経が正常に働くために必要な物質であり、損傷した末梢神経を回復させるのに役立ちます。
神経が障害されてしびれが見られる場合、神経の機能回復を助ける目的で、ビタミンB12のうち末梢神経への効果を高めた薬「メコバラミン(メチコバール)」がよく処方されます。処方箋なしで薬局で買うこともでき、大きな副作用もほとんどないため安心して服用できます。

ビタミンE

末梢血管を広げて血液の流れを良くします。長時間同じ姿勢をとったりすると、筋肉が固く緊張して血行不良による背中の鈍痛やコリ、張りなどが生じます。こうした症状を改善して痛みを和らげるのに役立ちます。

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2.神経ブロック療法

神経を麻痺させる注射

神経そのものや神経の近くに、麻酔薬または鎮痛薬を注射し、神経を一時的にマヒさせる治療法です。

からだの組織が刺激を受けた場合、痛みの情報は傷ついた箇所にある神経で最初に受け取られ、背骨を通る中枢神経(脊髄)を経由し、最後に脳へと到達してはじめて痛みを感じます。

神経ブロックでは、痛みを伝える神経の働きを妨げ、神経の経路を一時的に遮断する(ブロックする)ことで痛みを感じなくします。内服薬や外用薬による痛み止めからステップアップした治療法と言えます。

主な効果

  • 痛みの情報を遮断することによる高い鎮痛効果
  • 骨や筋肉の損傷だけでなく、神経が障害を受けて発生する痛みに対しても高い鎮痛効果がある
  • 麻酔薬によって感覚神経だけでなく交感神経や運動神経も遮断されるため、血管や筋肉の緊張が和らぐ
    →血行が良くなって痛みの元となる炎症物質や疲労物質が流出しやすくなり、痛みや疲労の回復が早まる

痛みを抑える効果は非常に高いですが、ほかの痛み止め薬と同じく、痛みの原因となっている病気を根本的に治すものではありません。しかし1〜2週間に1回程度、繰り返し神経ブロック注射を行うことで、麻酔が効いていない時間帯の痛みも徐々に軽くなっていくケースが多く見られます。

こんな場合に行われる

  • 一般的な痛み止め薬(非ステロイド系の消炎鎮痛薬)を使用しても痛みが治まらなかったり、効果が良くない場合
  • 神経の損傷や圧迫による痛みが見られる場合
  • 急激な激しい痛みが見られる場合
  • 椎間板ヘルニアなどで、どの神経に異常があるのかを突き止める目的で行われることもあります
使えないケース

  • 足のマヒや歩行障害、排尿・排便障害など(馬尾症状)がある
  • 麻酔薬や副腎皮質ステロイド薬に対するアレルギーがある
  • 抗血液凝固薬を服用しているなど血液が凝固しにくい
  • 「糖尿病を患っている」、「免疫抑制剤を服用している」など免疫機能が低下しており細菌に感染しやすい
  • 注射針を刺す部位に皮膚病や炎症がある
副作用

  • まれに感染症や出血を引き起こしたり、神経を傷つけたり、針によって組織に炎症を起こしたりする
  • しびれ、脱力感、排尿障害、立ちくらみ、めまい、けいれん、吐き気、頭痛など
◆神経ブロック療法の種類

神経ブロック療法にはいくつかのやり方があり、症状や目的に合わせた手法が採られます。得られる効果にも違いがあります。

1.トリガーポイントブロック

痛みのある箇所に直接麻酔薬や鎮痛薬を注射する方法です。
神経ブロックの中では最も手軽に行える方法で、通常の注射と同じように外来で簡単にでき、治療後はすぐに帰ることができます。反面、ほかの手法に比べると痛みを抑える効果はやや劣ります。効果が小さい場合は、硬膜外ブロック、神経根ブロック、交感神経ブロックへと進んでいきます。

※「トリガーポイント」とは
指などで押した時に急に痛みが広がる箇所のこと。硬くこっていることが多く、痛む箇所から遠く離れた場所に見つかることもある。

2.硬膜外ブロック

図解:硬膜外ブロック

脳や脊髄は、周囲を「硬膜」と呼ばれる膜によって包まれています。この硬膜の外側の空間に麻酔薬を注入して、痛みの強い部分の神経を麻痺させ痛みを和らげる方法です。
神経根ブロックよりは鎮痛効果は低いですが、神経への血流を良くする効果もあり、障害のある神経に酸素や栄養素が多く供給されて神経の機能を回復させます。

主に椎間板ヘルニアや神経根型・混合型の脊柱管狭窄症に対して行われます。痛みがひどい場合は、入院して24時間連続して硬膜外ブロックを行うこともあります。

3.神経根ブロック

図解:神経根ブロック

中枢神経である脊髄からは細い神経が何本も枝分かれしており、その根本部分は「神経根」と呼ばれます。障害が発生している神経根やその周辺に麻酔薬を注入する方法です。
神経を画像で確認できる造影X線撮影を行い、正確な神経の場所を確認しながら注射します。神経に直接注射を打つため瞬間的にとても痛いですが、すぐに痛みが止まります。

主に神経根の圧迫が見られる椎間板ヘルニア脊柱管狭窄症に対して行われます。また、どの神経が障害されているかを調べるときにも神経根ブロックが行われます。神経根に注射針を刺したときにどの部位に痛みを感じるかを調べることで、異常のある神経根を特定することができます。

4.交感神経ブロック

腰椎の3番目あたりには下半身の血流をコントロールする交感神経節があります。この交感神経根をブロックすると、椎間板や椎間関節など、腰椎の全ての組織の神経がブロックされます。腰痛に対して最も鎮痛効果の高い手法です。
急性でも慢性でもあらゆる腰痛に対して効果があり、一時的に腰痛が完全に治ります。また足に流れる血液が一気に増えるため、下半身の血流が弱い患者に対しては血流回復の効果も期待できます。

このように非常に効果の高い治療法ですが、患者の体にかかる負担が大きく、また、交感神経節のある箇所が大動脈に近いことから脊髄の専門家と医療機器や医療スタッフの整った病院でないと行えないといった課題もあり、頻繁に行われることはありません。

3.まとめ


<薬の種類と主な用途>
種類 目的
消炎鎮痛剤 痛み止め(骨や筋肉)
血流改善薬 血行の促進
筋弛緩剤 筋肉の緊張をほぐす
抗てんかん薬 痛み止め(神経)
抗うつ薬 うつ病の治療、 痛み止め(神経)
ビタミン剤 筋肉の疲労回復、神経の機能回復
血行の促進
神経ブロック 痛み止め(骨、筋肉、神経)
血行の促進、筋肉の緊張をほぐす
<背中痛の種類と適応される薬>
腰痛の種類 薬剤
骨や筋肉の障害による痛み 消炎鎮痛剤
筋弛緩剤
血流改善薬(主に脊柱管狭窄症)
ビタミンB1、E
神経ブロック
神経の障害による痛み 抗てんかん薬
抗うつ薬
ビタミンB6、B12
神経ブロック

薬物療法は今現在生じている痛みや苦痛を和らげたり取り除いたりする治療法です。

無理に痛みを我慢したり、薬嫌いで自分で痛みをなんとかしようと頑張ってみたりすると、痛みによるストレスで症状が更に悪化する恐れがあります。痛みがひどい時は無理せず薬に頼った方が、身体にも心にも良い結果をもたらします。

ただし、薬の効果で一時的に痛みが治まっても、痛みの原因となっている病気や障害まで治ったわけではありません。薬で症状が楽になるからといって根本的な治療をおろそかにしないよう、薬を服用するのは症状がひどい時だけにしましょう。

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