運動による背中の痛みの治療法

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背中の痛みの対策と予防 解剖図イラスト:背中の骨・筋肉背中の痛みの体験談

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体を鍛える治療法『運動療法』について

背中の痛みに対して有効な治療法の一つに「運動療法」があります。

症状に応じた適度な運動を行い、筋力、体力、柔軟性といった身体機能を高めて背中や腰の負担を減らしたり、肥満やストレスを解消することで痛みの改善・解消を目指します。

ここでは運動の効果と重要性、運動の種類、痛みが和らぐ仕組み、運動時の注意点などについて解説します。

<目 次>

  1. 運動よって得られる主な効果
  2. 運動の種類
  3. 運動を行う際のポイント、注意点
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1.運動よって得られる主な効果

運動による健康増進効果


  • 筋力を高める
  • 筋肉や靭帯などの組織の柔軟性を高めたり、緊張を和らげる
  • 骨を丈夫にする
  • 関節の可動域(動く範囲)を広げる
  • 体力がつき、抵抗力を高めたり組織の老化を遅らせる
  • エネルギー(カロリー)を効率的に消費できる
  • ストレス解消になる

こうした効果は全て背中の痛みの解消や予防につながります。


1-1.姿勢が良くなる

老化とともに腰が曲がる

姿勢の悪さは背中や腰の痛みの大きな原因の一つです。

腹筋や背筋が鍛えられると上体が安定するため、猫背などの悪い姿勢になりにくくなります。
また、からだの老化が進むほど、背骨の土台である骨盤が前傾して背骨も歪んできますが、筋力を強化し組織の老化も抑えることで、背骨の形を正常に保つことができます。

1-2.背骨(脊椎)を支える力が強まる

脊椎と筋肉
背骨と深層筋肉

背骨は骨盤や腰椎(腰部の背骨)を支柱にして、周囲を筋肉や靭帯によって支えられています。こうした組織が強化されることで、背骨をまっすぐに保てるほか腰椎にかかる負荷を軽くすることができます。

適切な運動を定期的に行うことで、「丈夫で柔軟性のある筋肉と靭帯」、「若く水分に富んだ柔軟な椎間板」、「スムーズに動く関節」、「緩やかなS字カーブを描いた背骨」など、体の組織を理想的な状態に保つことができます。
その結果、体重や外部からの衝撃によって腰や背中にかかる負荷を吸収・分散する働きが高まります。


1-3.血行が良くなる

運動を行うことで体が温まり、筋肉や靭帯の緊張が和らいで血液の流れが良くなります。
軟らかい組織では負荷を吸収する働きが強まり、また血行が良くなると炎症物質や疲労物質が流れ出て行きやすくなるため、痛みが和らいだり回復が早まります。

1-4.病気やケガの予防になる

運動によって身体機能が高まると、物にぶつかったり転倒する機会が少なくなるほか、無理な姿勢をとったり接触事故などのアクシデントに会った時にもケガをしにくくなります。
また、体力がついて抵抗力(免疫)も高まり、病気にかかりにくくなります。運動によって血液の循環が良くなり、心肺機能も向上して、特に心臓病や脳卒中、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病の予防に役立ちます。
ほかにも骨に負荷がかかることで骨が丈夫になり、骨折の予防にもつながります。

1-5.肥満を防ぐ

運動で肥満解消

体脂肪の量が多い肥満になると、体重による腰や背中への負荷が増えたり、内蔵の病気を発症しやすくなることで痛みを生じやすくなります。
運動をすることで多くのエネルギーを消費でき、肥満の解消につながるだけでなく、体の筋肉量が増えて基礎代謝(何をしなくても消費されるエネルギーの量)が高まるため、太りにくい体質になります。

1-6.ストレス解消になる

不安やストレスなどの心の不調は、身体の調子を整える自律神経や、痛みを制御するシステムの働きを低下させ、通常なら感じないほどの小さな痛みを不快な痛みにまで増大させます。

適度な運動を行うことはストレス解消にも効果的であり、心と体の健康を保つのに最適です。軽い運動を行うことは、うつ病などの精神的な病気の治療法としても取り入れられています。

また、痛みは快感によって軽くなることが科学的にも証明されています。ゆっくりと景色を楽しみながら散歩をするなど、運動によって爽快な気分を味わうことが直接痛みの軽減にもつながります。

1-7.慢性的な痛みや予防にも効果的

運動療法は、何年にもわたり痛みが続く「慢性痛」に対しても高い治療効果をもつことが医学的に証明されています。

逆に、ぎっくり腰のような急で激しい痛みに対しては、運動によって症状が悪化することが多いため、からだを動かさずに安静にすることが鉄則です。
しかし急性の痛みの場合でも、ある程度からだを動かせるようになったら、多少痛みが残っていても歩いたり仕事をしたりして無理のない範囲でからだを動かしたほうが、安静にするよりも治りが早いことが分かっています。
安静にしすぎることは回復を遅らせ、かえって状態を悪くしてしまうこともあります。

また、背中の痛みの多くは、肩・背中・腰への負担が蓄積し、筋肉や椎間板、神経などの組織が損傷した結果として生じます。運動によってそうした組織が丈夫になり、更に姿勢も良くなることによって、体の負担が軽くなって痛みが和らぐだけでなく、将来的にも痛みの発症を抑えられます。
治療だけでなく高い予防効果も期待できるのです

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2.運動の種類

運動療法で行う運動の内容は、種類別に大きく3つに分けられます。

体をゆっくり曲げ伸ばしする「柔軟体操・ストレッチング」、ウォーキングや自転車こぎなど、全身を使った運動を行う「全身運動(有酸素運動)」、筋肉や骨に負荷をかけて強化する「筋力トレーニング」です。

2-1.柔軟体操・ストレッチング
関節の動きを良くする体操

運動不足によって筋肉が衰えたり、筋肉疲労がたまると、筋肉が固くこわばり血行が悪化します。すると関節の動きが悪くなったり、関節の動く範囲(駆動域)が狭くなることで、特に腰にかかる負荷が大きくなります。そして腰の機能の低下は背中の負担増へとつながり、腰と背中の痛みが出てきます。

腰の動きが悪い時に有効なのが、腰まわりや太ももの筋肉をゆっくりと伸ばす運動です。
筋肉や靭帯を伸ばすストレッチを続けることで、これらの組織の柔軟性がアップして関節がスムーズに動くようになります。筋肉の血行も良くなるので、より痛みが軽減されます。また、腰の組織に刺激を与えることで新陳代謝が良くなります。

背骨(脊椎)のゆがみを矯正する体操

上体そらし体操

椎間板ヘルニアなど、脊椎の異常を原因とする背中痛では、腰〜背中をある方向に曲げると痛みが生じ、逆方向に曲げると痛みが和らぐ傾向があります。こうしたケースでは、痛くない方向に体を伸ばす体操を行うことで症状を緩和させることができます。
これは体操を継続して行うことで脊椎のゆがみが矯正され、周辺組織への刺激や神経の圧迫が軽くなるためです。

例えばヘルニアなどで前かがみになると痛む場合には、上体を後ろに反らす体操が有効で、逆に体を反らせると痛む場合は、背中を丸める前屈運動が有効です。
脊椎の変性が軽度〜中程度であれば特に良い効果が得られます。

具体的な体操法
柔軟体操の目的・効果

  • 脊椎のゆがみを矯正する
  • 筋肉や靭帯の柔軟性を高め、緊張をゆるめる
  • 関節の動きを良くし、可動域(動く範囲)を広げる
  • からだの深部の筋肉(インナーマッスル)を鍛える

2-2.全身運動(有酸素運動)

全身を使う運動イメージ

有酸素運動とは、体を動かすためにたくさんの酸素を必要とする運動のことです。
大きな力を必要とせず、比較的ゆっくりとした動作で行うもので、代表的なものは散歩、ウォーキング、ジョギング、サイクリング、水泳などです。

走ることを例に挙げると、適度な負荷で長距離を走る「ジョギング」は有酸素運動ですが、強い筋力や瞬間的な強い力(瞬発力)が必要で、体に大きな負荷がかかる「短距離走」は無酸素運動になります。

からだに一度にかかる負荷が小さい分、筋力トレーニングなどの無酸素運動に比べて障害が発生する危険が少なく比較的安心して行えます。

全身運動の効果

  • リズミカルな呼吸で酸素を体内に多く取り込み、糖質や脂肪を効率よく燃焼させることができます。
    時間あたりの消費エネルギーが大きいため、肥満の解消・防止効果が高く、生活習慣病予防にも役立ちます。
  • 全身に適度な負荷を与えることで、骨や筋肉などの体の組織を無理なくバランスよく鍛えられるため、体が丈夫になり安定感が増してケガをしにくくなります。体力や抵抗力(免疫力)も向上し、病気にもかかりにくくなります。
  • 心肺機能や血管の機能が高まり、血液の循環と新陳代謝がよくなって、組織の老化を遅らせることができます。
  • 苦痛を感じない範囲で気持よく運動を行うことで、爽快な気分になりストレスが解消されます。
具体的な運動法
全身運動の目的・効果

  • 丈夫な体を作る
  • 体力や抵抗力をつける
  • 肥満を解消する
  • 組織を若く保つ(老化を遅らせる)
  • ストレスを解消する

2-3.筋力トレーニング(無酸素運動)

腹筋・背筋を鍛える

腹筋運動や背筋運動、運動器具を使って重い負荷をかける運動などの「筋力トレーニング」を行い、肩・腰・背中の筋肉を強くすることで、体を支える力を強くしたり、良い姿勢を保ちやすくなります。

また、筋肉量が増えることで基礎代謝が上がるため、エネルギーが消費されやすく太りにくい体質になります。

トレーニングを行う際のポイントは、筋肉をバランスよく鍛えることです。
例えば腹筋と背筋のどちらか一方が強すぎたり弱すぎたりすると、背骨を前後左右から均一に支えることができないため、背骨がゆがみ姿勢を悪くする要因になります。また、トレーニングによって筋肉が大変疲弊するので、限度を超えてやりすぎたり、腰や背中の疲れがたまっている時に無理に行ったりすると、逆に痛みが発生してしまいます。
無理せずできる範囲で安全に行いましょう。

治療よりも予防に効果的

筋力トレーニングは痛みが出る前に行うことで効果を発揮します。
肩の筋肉や腹筋・背筋をバランスよく鍛え、体を支える力を強くしておけば背中痛の予防に大変効果的です。

痛みが発生した後に筋肉を鍛えても、それですぐに痛みが良くなることはありません。それどころか痛みのある箇所に更に負荷をかけ疲労させてしまうと、かえって症状を悪化させかねません。

痛みが出たら安静にすることが基本です。姿勢や動作に気を配って負担をかけないようにし、場合によっては整形外科を受診して薬物療法などの適切な処置を受けます。痛みが回復した後で無理なくトレーニングを行い再発防止に努めましょう。

筋力トレーニングが必要な人

特別に筋力トレーニングを行う必要があるのは、筋肉がとても衰えていて姿勢が自然に悪くなるような人です。からだをほとんど動かさない若い女性や高齢者に多いです。

普通に運動ができるくらいの人なら必ずしもトレーニングを行う必要はありません。通常の運動、スポーツ、柔軟体操などでも必要な筋肉は十分につきます。ただし、デスクワークなどの座り仕事で、肩こりや腰痛がひどい人は、背中痛が大変発生しやすい状態にあるといえます。こうした人は姿勢や動作に気を配るだけでなく、日常的なトレーニングやストレッチングも行った方がよいでしょう。痛みの予防効果がぐっと高まります。

筋肉がないよりはあった方がいいのは確かなので、頑張って鍛えること自体には問題ありません。

重要な筋肉

背中の痛みを予防するために特に鍛えておきたいのは、肩、背中、腰まわりの筋肉です。
各筋肉の位置や働きについては「背中のイラスト図解」を参照してください。

具体的な運動法
筋力トレーニングの目的・効果

  • 筋力を強化し、からだを支える力を強くする
  • 筋肉をつけ、血液の流れ(血行)を良くする
  • 基礎代謝を高め、肥満を防止する

3.運動を行う際のポイント、注意点

3-1.いくつかの運動を組み合わせて行う

ここで紹介した三種類の運動は、それぞれ得られる治療効果が異なります。一つだけ行うよりも、複数並行して行うほうが治療効果は高くなります。まんべんなくできれば一番ですが、初めから全て行うのは大変ですので、まずは自分に一番必要と思われるものから試し、慣れてきたら徐々に色々な運動法を取り入れていきましょう。

3-2.継続して行う

運動で大事なことは「継続すること」だと言われます。
例えば運動の効果を得るためには合計で20時間以上続ける必要があるというデータがあります。1日30分行った場合でも1か月以上かかることになります。できれば毎日、忙しくても週に2、3回は運動を行うようにしましょう。
例えばAAOS(アメリカ整形外科学会)では、腰の筋力強化・早期社会復帰を目的とした場合、10〜30分の運動を1日1〜3回行うように勧めています。

継続することが大切であるとはいえ、自分で決めたノルマは必ずこなすという厳しいルールを作ってしまうと、無理をして症状を悪化させる危険性が高まります。あまり気負わずに大体の目安をほぼ毎日続けるといった気楽な心構えで臨みましょう。

継続するための工夫

普段運動する習慣がない人の場合、毎日続けるのは難しいものです。
そこでオススメなのが「一緒に運動をする仲間を作ること」です。夫婦や友人など仲の良い人と一緒に行ったほうが楽しくて長続きします。都合の合う知人がいなければ、趣味のスポーツサークルに加入したり、会員制のスポーツクラブなどの施設で行うのも良いでしょう。どんな運動をするか決める際にも、一般に効果的とされているものを選ぶより、「自分が楽しいかどうか」を基準としたほうが続けやすいでしょう。

また、初めからきつい運動を行ったり高い目標を設定せず、まずは外出する機会を多くしたり、気分転換の散歩を日課にしたり、家事をしっかりこなすなどの簡単なことから初めてみるのも効果的です。

3-3.しっかり準備してから行う
指導者付きの運動

豊富な運動の経験や予備知識もなく自己判断だけで安易に運動を初めてしまうと、思わぬトラブルに見舞われる恐れがあります。
運動経験の少ない人や痛みのひどい人は、運動の種類、量、強さ、負荷などについて事前に医師と相談して行った方が安全です。特に椎間板ヘルニア脊柱管狭窄症骨粗しょう症の患者、関節の変性が進んでいる人、痛みが激しい人、持病のある人、通院中の人などは、必ず事前に医者の指示を仰いで下さい。

準備運動・整理運動

思わぬケガや痛みの悪化を起こさないよう、運動の前には入念すぎるくらいの準備運動(ウォーミングアップ)を行い、特に下半身と腰から背中の筋肉や関節をしっかりほぐしておきましょう。
運動後の整理運動(クーリングダウン)も大事です。整理運動は筋肉の疲れをとり、回復を早めたり筋肉痛の予防効果があります。

3-4.適度な負荷で行う

運動は自分の体力や筋力に見合った強度で行うことが重要です。

軽すぎる運動では思ったほどの効果が得られなかったり、十分な効果を得るまでに時間がかかってしまいます。激しすぎる運動では、運動を長く続けられずに効果が下がってしまったり、体を痛めて逆効果になることもあります。

ちょうどよい負荷の目安

  • 柔軟体操
    やや痛みを感じるが筋肉が伸びて気持ちよさも感じる「痛気持ちいい」くらいが良いとされます。
  • 筋力トレーニング
    一つの動作を最大15〜20回続けられるくらいの負荷が良いとされます。負荷の調節ができない運動の場合は、無理なくできる回数でかまいません。
  • 全身運動
    「息が軽くはずんで会話もできるくらい」の強度で続けましょう。

全般的に見て、健康効果や治療効果を得るには「ややきつい」と感じる程度が良いようです。
自分に合った強度と運動量を覚えておいて、物足りなく感じるようになったら少しずつ負荷を大きくしていきましょう。

3-5.からだに異常を感じたら休む

体調が悪く気分がすぐれないとか、背中に激しい痛み・違和感・不快感などを感じる場合には、無理をせずにその日は運動を休むようにしましょう。

運動中にそうした症状が現れた場合は、すぐに運動を中止して休息し、症状が治まるのを待ってください。症状が治まらないようなら医療機関を受診しましょう。
特に以下のような症状が見られた場合は、例え症状が治まったとしても大事をとって診察を受けておくことをおすすめします。

  • 強い痛みやしびれを感じる。または足腰に力が入らない
  • 頭痛やめまい、激しい動悸、息切れなど
  • 冷や汗が出たり、気分が悪くなる
3-6.急性期の痛みに対しては行わない

ぎっくり腰のような急激で激しい痛みがある間は、痛む箇所を動かさずに痛みが和らぐまでは安静にしましょう。
ある程度痛みが和らいできて動けるようになってきたら、過保護にしすぎず、できる範囲で通常の生活を送るようにすると回復が早まります。

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