大動脈瘤とは(症状・原因・治療)
背中の痛みを引き起こす可能性のある病気の一つに「大動脈瘤(だいどうみゃくりゅう)」があります。
ここでは背中の痛みとの関係を交えながら解説します。
1.大動脈瘤が疑われる症状
背中の痛みのほかに、以下のような特徴や症状が見られる場合、大動脈瘤が発症している可能性があります。
<軽度の場合>
- 咳(せき)、息切れ、しわがれ声、物が飲みにくい
- 胸の痛み
- 顔がむくむ
<重度の場合>
- 胸と背中に激痛が起こり、それが広がっていく。激痛は腹部や腰に及ぶこともある
2.大動脈瘤とは 〜 原因と特徴
大動脈は全身の組織や臓器に血液を送る大事な血管ですが、この大動脈が弱くなり、瘤(こぶ)のようにふくらんだ状態が大動脈瘤です。
動脈の壁が裂けてしまった状態のこと解離性(かいりせい)大動脈瘤をいいます。
こぶができている状態ではほとんど症状が表れません。しかし、これが破裂すると、胸、背中、腹、腰などに激痛が走ります。こうなると大出血を伴うため死亡率が大変高くなります。
4cm以下のこぶが破裂する危険性は2%以下ですが、5cm以上になると2年以内に破裂する危険性が22%になります。
これらの病気は50〜60歳前後の中高年の男性に多く見られます。
かつては梅毒によるものが多かったのですが、最近は動脈硬化(症)によるものが大半を占めています。
大動脈の血管に動脈硬化や炎症が起こると、血管壁の繊維が壊れて弱くなり、その部分が血液の圧力によって大きくふくらんでコブのようになります。
動脈硬化の主な原因は、「コレステロール値や中性脂肪値が高い」、「糖尿病、高血圧、高脂血症」、「運動不足」、「ストレス」、「肥満」、「喫煙」、「加齢」などです。
大動脈瘤は先天性(生まれつき)の体質が関係して発症する場合もあります。
大動脈瘤の直径は年に約4ミリずつ大きくなっていきます。小さいうちはほとんど症状が現れません。しかし大きくなると体の内部に圧力がかかってコブに近い箇所に痛みが現れます。やがて血圧に耐えられなくなり瘤(こぶ)が破裂します。
破裂直前から突然の激しい背中痛、腹痛、腰痛が起こり、破裂後は激痛と出血のために顔面蒼白になって失神することが多く、血圧が低下して出血性ショック状態(※)に陥ります。
動脈硬化によってもろくなった動脈では、こぶが急速に大きくなります。
※「出血性ショック」とは
急な大量出血のために、急激に血圧が下がるとともに、全身の組織や臓器に十分な血液が送られなくなり、機能不全など重大な障害が起こります。早期に回復しなければ死に至ります。
3.診断・治療・予防
大動脈瘤ができても大抵は自覚症状がなく、多くは健康診断における胸部のX線検査、腹部の超音波検査などで偶然発見されます。
また、自分で腹部を触ってみて"しこり"に気づいたり、痛みを感じて診察に訪れることもあります。
医療機関ではX線やCTスキャンの画像でコブを確認して確定診断を下します。MRI検査や超音波検査、血管造影などを行うこともあります。
【関連項目】
一度できた大動脈瘤を小さくすることはできないため、こぶが小さい場合はそれ以上大きくならないような治療をします。血圧を下げる薬を服用し、同時に運動や食事制限でコレステロール値と中性脂肪値を適正に保ち、動脈硬化を改善します。
こぶが大きく重症の場合は、大動脈瘤がある血管を切開して、人工血管に置き換える移植手術を行います。
破裂した後の緊急手術では死亡率が40〜50%と非常に高くなりますので、痛みなどの自覚症状がなくても直径5cm以上のこぶは原則として手術を行います。最近では合併症がなく手術によるリスクが低い場合は4〜5cmでも手術したほうがよいとされています。
また、こぶの拡大速度も判断基準の一つで、半年に5mm以上大きくなる場合も手術するべきだと考えられています。
手術を行った後の経過は比較的良好で、5年後の生存率は約70%です。
大動脈瘤の主要な原因である動脈硬化を予防するため、規則正しい生活習慣を心がけることが大切です。暴飲暴食を避けバランスの良い食事をとり、適度な運動を行い、ストレスはためこまず上手く解消するようにしましょう。
先にも述べたように、大動脈瘤は症状が重くなるまではこれといった病状が表れず、重症化してしまうと死亡率が大変高い恐ろしい病気ですので、1年に1度は健康診断や人間ドックを受けることが望ましいでしょう。特に高血圧の人や身内に大動脈瘤の発症経験のある人は注意が必要です。
4.その他
【受診科】
- 循環器内科、心臓血管外科
【背中の痛みのある血管の病気・障害】
【大動脈瘤の原因となる病気・障害】
- 動脈硬化(症)、梅毒、糖尿病、高血圧、高脂血症