医療機関で行われる主な治療法
<目 次>
- 治療の流れと、治療法の分類
- 保存的療法
- 薬物療法(薬を投与して治す)
- 運動療法(体を動かして治す)
- 温熱療法(体を温めて治す)
- 装具療法(道具で保護して治す)
- 牽引療法(体を引っぱって治す)
- 電気療法、レーザー療法(電気やレーザーをあてて治す)
- 徒手療法(マッサージや骨の矯正で治す)
- 化学療法・放射線療法(細菌感染やガンを治療する)
- 外科的療法(手術療法)
1.治療の流れや分類について
背中の痛みに対して病院などの医療機関で採られる治療法は大きく二つに分類されます。
1つは、体を切開したり穴を開けるなどの外科的治療(手術)を行わずに治療を進める方法です。
内容や種類は様々ですが、まとめて「保存的療法」と呼びます。組織や臓器そのものや、それらの機能が失われずに"保存"される治療法です。単純に「手術以外の方法」と考えて良いでしょう。
2つ目は患部を切開して様々な処置を施す「外科的療法(手術療法)」です。
手術でなければ治療できないような重症のケースを除き、初めは症状に応じた保存的療法をいくつか組合せて治療を進めます。一定期間治療を行っても症状が改善されない場合は手術も検討するというのが一般的な治療の流れです。
単純に症状の重さだけでなく、患者自身が症状をどのくらい負担に感じているか、またどんな治療を望んでいるのかも重要です。こうした要因を考慮した上で、どういった治療法が適切か総合的に判断します。
2.保存的療法
からだを切開するなどの外科的治療を行わずに治療を進める「保存的療法」には様々な種類があります。
主な治療法とその概要について解説します。
痛みをコントロールするための薬物を服用する治療法です。
安静にしていても痛みがとれなかったり、激しい炎症が起きている場合に、これらを和らげたり解消したりする目的で行われます。
- 消炎鎮痛剤(痛み止め薬)
炎症を鎮めることで痛みを和らげる効果があり、最も良く使用されます。
通常は副作用の少ない非ステロイド性抗炎症薬が使われ、症状の重いケースに限り、鎮痛効果は大きいが副作用も大きいステロイド薬が使われます。 - 筋弛緩剤
筋肉の緊張を和らげる効果があります。 - 抗うつ薬、抗てんかん薬、精神安定剤
ストレスからくる痛みに効果があります - 血流改善薬、漢方薬、ビタミン剤など
痛みが激しい場合は、神経に麻酔薬や鎮痛薬を注射して神経の経路を一時的に遮断し、痛みを感じなくする「神経ブロック療法」も採られます。
薬の形態は、患部に直接貼り付けたり塗りつけるタイプの「外用薬」、口や肛門から服用する「内用薬(内服薬)・座薬」、患部に直接注入する「薬物注射」があります。
薬物療法については別項で詳しく解説しています。
症状に合わせた適度な運動を行い、それによって得られる様々な健康効果(後述)によって痛みの解消、緩和、予防を図る治療法です。
運動の主な内容は、筋肉や腱をほぐしたり、関節の動きを良くするための「柔軟体操やストレッチング」、筋力アップや骨の強化のための「筋力トレーニング」、ウォーキングなどで体力の向上や肥満の解消を図る「全身運動(有酸素運動)」があります。
背中に激しい痛みがある時は、背中を動かさずに安静にしていることが原則です。
しかし、ある程度痛みが和らいで動けるようになってきたら、無理のない範囲で積極的に体を動かしたほうが、安静にするよりも治りが早いことが分かっています。安静にしすぎると回復を遅らせ、かえって状態を悪くしてしまうこともあります。
- 筋力を高め、骨も丈夫にする
- 筋肉や靭帯の柔軟性を高める
- 関節の可動域(動く範囲)を広げる
- 血液の流れ(血行)を良くする
- 体力をつけ、抵抗力(免疫)を高める
- 組織の老化を遅らせる
- ストレスが解消される
こうした効果によって、肩・背中・腰などの組織が丈夫になり、体にかかる負荷を支える力が強まるだけでなく、痛みの回復を早めたり、悪い姿勢を矯正したり、背骨のカーブを正常に保つことにもつながります。
また、体力や免疫の向上、ストレス解消によって病気になりにくく、ケガもしずらい体になります。
患部を温めることで血行(血液の流れ)を促進する治療法です。
血行が良くなると、痛みや炎症の元となる化学物質や疲労物質が流れ出ていきやすくなり、痛みが和らいだり回復が早まります。
また、筋肉が柔らかくなり関節の動きも良くなって、外部からの負荷や衝撃を吸収・分散する働きが強まり、背中の痛みと関連の強い首、背中、腰の負担が減ります。
体の動きが良くなることでケガもしにくくなります。
医療機関では電気・超音波を使った専用機器やホットパックを使用します。家庭でも、入浴、カイロ、腹巻き、サポーターなど、様々な方法で手軽に患部を温めることができます。
温熱療法については別項でより詳しく解説しています。
患部の保護、固定、動きの安定を目的とした器具「装具(そうぐ)」を取り付けることで身体機能を補い、体の負担や痛みを軽減する治療法です。
装具の代表的なものに、ひざや腰用のコルセットやサポーターがあります。
- 外部からの衝撃を和らげ、筋肉や骨を保護する
- 患部を適度に固定して、不適切な動きや姿勢を制限する
- 良い姿勢を保つ(外した後も姿勢が良くなりやすい)
- 背骨のゆがみを矯正する
- 安心感が得られる
→痛みがひどい人の場合、ちょっとした動作で激しい痛みを感じるため、常に姿勢や動作に気を使い、神経をすり減らしながら生活しなければなりません。しかし装具を付けていれば動きが制限されるため、そうした気疲れが少なくなり気持ちが楽になります
装具をつけると痛みが軽くなるのは、装具が患部の筋肉の代わりに体を支えてくれるからです。
筋肉は使われないと細く弱くなっていきます。装具に頼りすぎて漫然と長い期間使い続けると、体を支える力が弱くなり、装具を外した後に痛みはかえって悪化してしまいます。
6ヶ月程度の装着では筋肉の弱化は生じないともいわれていますが、装具への依存心を強めすぎないためにも、ある程度痛みが和らいできたら装具は外し、筋肉を鍛える運動療法などの治療法に移行していきましょう。
コルセット治療は、"急で激しい痛み"が見られる急性期のみに行うことが合理的です。どうしても使い続けたい場合は、支える力が弱めのものを使いましょう。
専用の装置を使って腰や背中を上下にひっぱり、背骨(脊椎)の骨の間隔を広げる治療法です。
- 脊椎の関節(椎間関節)を広げて関節の動きを良くする
- 椎間板への圧力を減らす
- 筋肉や靭帯の緊張をほぐし、血流を良くする
- 背骨のゆがみを矯正する
主に椎間板ヘルニアなど、脊椎の圧迫が原因になっている症状を軽減させる効果が期待されます。
何かにぶら下がって腰を伸ばすと腰が気持ちよく感じるように、牽引療法を行うと気分が良くなることも多いです。しかし、牽引療法が背中や腰の痛みの治療に有効であるという科学的根拠は不足しており、効果の大きさは実証されていないのが現状です。
患部に電流を流して電気刺激による様々な治療効果を得る方法です。体内にペースメーカーや金属が入っている人には使えません。
<主な治療法とその効果>
- 痛みのある箇所に電極をはりつけ、低周波、高周波などの微弱な電流を流す(経皮的電気神経刺激)
→刺激によって筋肉がピクピクと軽く収縮し、痛みを軽減したり筋肉を鍛える効果があるとされる。また、痛みを伝える神経の流れを遮断したり、痛みを和らげる体内物質の放出を促進させる働きもあると見られる - 体のツボを電気で刺激して、痛みの軽減や血行改善を図る(SPS(シルバースパイクポイント))
- 超音波、短音波などを用いて体の深部まで温める(温熱療法)
電気療法による背中や腰の痛みへの治療効果については、十分な科学的根拠はありません。
患部に弱いレーザー光線を当てて、痛みを軽減させたり回復を早める治療法です。
レーザーによって「神経の活動や免疫活動(ウイルスなどの外敵に対する防御反応)が活発になる」、「血管が拡張する」、「毛細血管がたくさん作られる」といった効果が現れ、痛みが和らぐと考えられていますが、詳しい仕組みは明らかになっていません。
解剖学や骨格学の専門知識のある医師が、主に手を使って患者の整体やマッサージを行う治療のことです。
民間施設でも整体やカイロプラクティックなど似たような治療を行うところは多いですが、人体の構造(解剖学)を熟知していない未熟な施術者が行う治療は危険をともない、かえって病状を悪化させることにもなりかねません。
民間療法による治療を希望する場合には、まず医師とよく相談し、その上で施術者が専門的な知識と十分な経験を持っているかどうかを確認してから治療を受けましょう。
【関連項目】
抗菌作用のある薬「抗生物質」や、がん細胞の増殖を抑える薬「抗がん剤」を投与する治療法です。
骨の細菌感染が原因で背中や腰の痛みが発生する化膿性脊椎炎や脊椎カリエス、
脊椎や脊髄に発生する悪性腫瘍(がん)の治療などで行われます。
<主な内容と効果>
- 骨への細菌感染が見られる場合、抗生物質の点滴を行いつつ安静を保つのが治療の基本になります。感染がある程度広がっている場合でも、抗生物質のみで殺菌治療することができます。
- がんの治療は、がん組織を切除する手術を行うのが基本です。しかし、がんの転移が進んでいると、手術で全てのがんを切除するのは難しく再発の可能性も高まります。「がんの転移がみられる」、「高齢や全身の病気によって手術ができない」、「手術できない箇所にがんがある」といった重症ケースでは、抗がん剤による治療を行います。がんの再発予防にも効果があります。
放射線をあてて、がん細胞を死滅させる治療法です。
抗がん剤による化学療法と同じく、「手術が難しい場所に腫瘍がある」、「ガンが広範囲に広がっている」、「高齢で手術の負担に耐えられない」などの場合に適応されます。がんの再発予防にも効果があります。
転移の進んだがんの手術をする場合、化学療法、放射線療法、免疫療法などを組み合わせて行うことが多く、そうすることで各治療法の相乗効果が得られ、がんの治療効果・再発予防効果が高まります。
3.外科的療法(手術療法)
治療の基本は、先に紹介した「保存的療法」です。一定期間は保存療法を行い、症状が改善するかどうか様子を見ます。
しかし以下のようなケースにおいては手術による治療も検討されます。
<手術を行う主なケース>
- 保存的療法を一定期間行なっても症状が改善しない、または悪化している
- 背中の痛みやそれに伴う症状によって日常生活に支障が出ている
→激しい痛みの継続、足の強いしびれ、マヒ、筋力の著しい低下、排尿・排便障害など - すぐに治療を行わないと障害や後遺症が残ったり、生命に関わる病気が発症している
→骨の悪性腫瘍(がん)や一部の内蔵の病気など
ひと昔前までは、手術といえばメスで患部を大きく切除して行うような大掛かりなものが主でした。
しかし近年の医療技術の向上により、現在では内視鏡を使った体の負担の少ない手術や、手術以外の治療法も併用した効率的な方法が考案され、同じ症状に対する手術法の選択肢が増えてきました。
各手術法には長所と短所があり、どの方法を実施するかは、患部の状態、患者の体力や年齢、本人の希望、普段の生活環境などを考慮して決定します。
主な手術法とその内容については別項でより詳しく解説しています。