体力や抵抗力をつけ、肥満や老化も防止する「全身運動」
運動は、背中や腰の痛みに対して高い治療・予防効果を持ちます。
ここでは特に、軽めの負荷で全身を動かす運動である「全身運動(有酸素運動)」について、具体的なやり方と得られる効果を解説します。
<目 次>
- 運動を行う際のポイント、注意点
- 全身運動の種類と効果
2-1. 散歩・ウォーキング
2-2. ジョギング・ランニング
2-3. サイクリング・自転車こぎ
2-4. 水泳・水中ウォーキング
1.運動を行う際のポイント、注意点
- 服装は体を締めつけない、動きやすいものを着用しましょう
- 思わぬケガや痛みの悪化を起こさないよう、運動の前には入念すぎるくらいの準備運動(ウォーミングアップ)を行い、全身の筋肉や関節をしっかりほぐしておきましょう。運動後の整理運動(クーリングダウン)も大事です。整理運動は筋肉の疲れをとり、回復を早めたり筋肉痛の予防効果があります。
- 体調がすぐれない時や、痛みが強い時は無理に行わずに休みましょう。特にぎっくり腰のような急で激しい痛みが見られる場合には行ってはいけません
- 運動中に激しい痛み・違和感・不快感などを感じた場合には、すぐに運動を中止して休息し、症状が治まるのを待ってください。症状が治まらないようなら医療機関を受診しましょう。
特に以下のような症状が見られた場合は、例え症状が治まったとしても大事をとって診察を受けておくことをおすすめします。 - 足腰に強い痛みやしびれを感じる。または足腰に力が入らない
- 頭痛やめまい、激しい動悸、息切れなど
- 冷や汗が出たり、気分が悪くなる
- 無理はせずにできる範囲で安全に行いましょう。
限度を超えてやりすぎたり、疲れ・だるさ・コリ・張りなどの違和感を感じている時に無理に行うと、筋肉が疲弊しすぎて逆に痛みを発症させてしまいます。
別項でも運動時のポイントや留意点について詳しく解説しています。
2.全身運動の種類と効果
運動は大きく分けると、体を動かすためにたくさんの酸素を必要とする「有酸素運動」と、それほど酸素を必要としない「無酸素運動」があります。
走ることでいえば、適度な負荷で長時間走るジョギングやマラソンが有酸素運動で、短時間に大きな力や瞬発力を発揮する短距離走が無酸素運動です。
全身を使う運動の多くは有酸素運動であるため、ここでは「全身運動」と言い換えて解説しています。
代表的な全身運動には、ウォーキング、ジョギング、サイクリング、水泳、ダンスなどがあります。
酸素を体内に多く取り込むことで、効率よく脂肪や糖質を燃焼させてエネルギーを消費でき、肥満の解消や予防に役立つほか、血液の循環がよくなり心肺機能を高める効果が期待できます。強い力を必要とせず、からだに一度に大きな負荷がかかることが少ないためケガの危険性も少なく、どれも比較的安心して行えます。
- 丈夫な体を作る
- 体力や抵抗力をつける
- 肥満を解消する
- 組織を若く保つ(老化を遅らせる)
- ストレスを解消する
全身運動のうち、最も手軽にできてオススメなのが「ウォーキング」です。
ウォーキングはほかの全身運動に比べて背中や腰への負担が軽く、それでいて骨、筋肉、関節などの組織を強化する効果も十分にあります。
そのほか「時間や場所を選ばず手軽にできる」、「一人でも複数人でも楽しめる」、「歩く距離も自由」、「お金もほとんどかからない」など、とても利点の多い運動です。
ウォーキングといっても、ただ外に出て散歩するだけでも良いので簡単です。家のまわりを一周したり、近所を散策したり、ちょっと長めにウォーキングしたり、どこかに出かけたついでに周辺をちょっと歩いてみたりと色々なやり方があります。1人で気楽に行ってもいいですし、夫婦や仲の良い友人たちとでもいいでしょう。良い景色を眺めたり、楽しいおしゃべりをしながら歩ければより楽しくなります。
最初は無理せず歩ける時間と距離で行い、慣れてきたら徐々に長くしていきます。最終的には毎日20〜30分続けられるようになるとよいでしょう。
散歩の効用は、運動やストレス発散、気分転換になるだけではありません。外の空気を吸って、太陽の光や風を感じ、眼や耳から外界の色々な刺激が入ってくることです。それによって、脳の下行性疼痛抑制系が刺激されると、痛みをブロックするからだの機能が高まります。また、リズミカルに歩くことでセロトニンという神経伝達物質の分泌を促し、うつの回復・予防効果もあります。
- 「運動」であることを意識して歩く
ただ漫然と歩くより、やや急ぎ足で、少し息がはずんで汗ばむぐらいの速さで歩くのが理想的です。
あごをひいて胸を張り、腕を大きく振りながら歩きましょう。また、歩くときの姿勢を意識することも大切です。良くない姿勢で歩いていると、かえって痛みを悪化させてしまうこともあります。 - 継続して続ける
歩く時間は一日20〜30分程度、1週間に3日以上行うことを目標にしましょう - ウォーキングに適した靴をはく
ウォーキングシューズやスニーカーなど運動用の靴を準備しましょう。靴底が厚く柔らかいものはクッション性が高く、腰やひざへの衝撃を和らげます。また、きつすぎず緩すぎず自分の足のサイズに合ったものを使いましょう
(参考:衝撃を和らげる「インソール(中敷き)」) - 動きやすい服装で
重い服や体をしめつける窮屈な服は避け、軽くゆったりとした服で歩きましょう。汗をよく吸収し、乾きの早い素材を使ったものがお勧めです。高齢者は杖や手押し車を活用するのも良いでしょう。
- 長時間歩くときは水分補給を忘れずに。
- 冬の早朝など、血圧が急上昇しやすい時間帯は避けましょう。日中や夕方の暖かい時間帯がお勧めです。
- 雨など天候が悪いときは体を冷やす恐れがあるので、代わりに室内での体操などで体を動かしましょう。
- 犬の散歩をする場合、犬が急に走り出したり止まったりすると、足腰を踏ん張ったり急激な動きが要求されます。これが意外と腰やひざの負担になりますので注意しましょう。
ウォーキングでは物足りないという人は、ジョギングすることで、より運動効果を高めることができます。
運動効果が高い反面、体にかかる負担や運動後の疲労も大きくなります。
普段から運動する習慣のある人や、長期間ウォーキングを続けて体が丈夫になり、体力もつき、腰痛もだいぶ良くなってきた人のみ行ってください。
背中痛の治療ではなく、予防目的で行うものと考えましょう。
- ウォーキング以上に走る前の準備運動は念入りに行い、走り終わった後の整理運動も忘れずにしっかり行いましょう。
- 長時間走るときは水分補給を忘れずに。また、たくさん汗をかくため腰を冷やさないよう薄着は控えましょう。
- 走る習慣や経験があまりない人は、専門の本や雑誌などで正しいフォームや注意事項を確認しておきましょう。
- 持病を持っている人は、走っても大丈夫かどうか事前にかかりつけの医師に確認しましょう。
ウォーキングと同様に背中や腰への負担が比較的軽く、手軽に行える運動です。
自転車を利用することで行動範囲が広がり、長時間でも楽しみながら運動できるほか、室内で自転車こぎができる「エアロバイク」などのマシンを利用すると、天候が悪くても運動できるといったメリットがあります。
体力や心肺機能の向上といった全身運動効果も十分であり、同時に太ももやふくらはぎの筋肉を鍛えることもでき、下半身の筋力トレーニングとしても有効です。
前傾姿勢で運動ができるため、脊柱管狭窄症などの「背中を後ろに反らせると痛みが起こる」方にもオススメです。
- 周囲の状況や交通マナーに十分注意して行いましょう。
- まっすぐに運転できないなどバランス感覚の衰えた高齢者の場合、大きな事故を起こす危険があるので、屋外での自転車は控えましょう。
- 長時間サドルに座り続けることで、股ずれを起こしたり腰痛を悪化させることがあります。お尻や腰に違和感を感じない範囲で行いましょう。
水泳などの水中での運動は、浮力によってひざや足腰への負担が軽くなるため、運動が苦手な人や肥満の人、関節などに不安がある人でも比較的安心して運動ができます。運動量も相当なもので、水泳ならジョギングと同等以上の運動効果が得られます。
水中運動のなかでも、腰やひざに痛みを抱える人にお勧めなのが、水中を歩く「水中ウォーキング」です。特別な技術も必要なく、誰でも手軽に行えます。
- 水の抵抗があるため運動効率が高い
水中での水の抵抗は、陸上の空気抵抗の数十倍です。ゆっくり動いても脂肪が燃焼され、筋肉に刺激が与えられます。全身の筋肉をバランスよく鍛えることができ、腰に「筋力アップ」と「リラックス」という2つの効果をもたらして背中痛を改善します。消費されるエネルギーが多いため肥満解消効果も高いです。 - 心肺機能を高める
体全体が常に水圧を受けるため、陸上で運動するときよりも呼吸量が多くなり心肺機能が鍛えられます。 - 水の浮力
浮力によって、関節や筋肉、椎間板、靭帯などにかかる負担が減るため、いろいろな運動がしやすくなります。また、陸上と違って転んでケガをするような危険性が少なく安全に行えます。 - 温かい水温
水中のほどよい冷たさで血管が収縮し、体温低下を防ぐために熱が生産されます。その結果、血行がよくなり、新陳代謝も改善されます。
しかし長時間水につかっているとどうしても体が冷え、痛みを悪化させる恐れもあります。温水プールでも水温は体温よりは低いため、やはり冷えにつながることは確かです。定期的にプールから出て体を温めるなどの対策は必要です。
特に冷え性の人や、冷えによって腰痛が悪化している人は、ほかの全身運動を行うか、事前に主治医に相談して許可が出たら行うようにしましょう。
- 水中では歩くだけでも十分な運動量になります。最初は2〜3分歩いたら休んで呼吸を整えるというパターンを繰り返し、合計で15〜20分行うのを目標にしましょう。慣れてきたら大股で歩くようにし、後ろ歩きや横歩きなども組み合わせます。
前進する時、水圧で上半身があおられると腰を痛める恐れがあります。少し前傾姿勢をとり、腹筋に力を入れて歩くのがコツです。 - 1回あたりの運動時間は2時間以内とし、がんばり過ぎたり体を冷やし過ぎないよう気をつけましょう。
- 不安な人は理学療法士やインストラクターの指導を受けて行ことをお勧めします。
- 水泳を行う時は、背中や腰を強くそるような泳ぎ方をしてはいけません。水泳選手のような本格的な泳ぎ方をする必要はありません。
- スポーツジムではプールの他にお風呂やサウナも利用できたり、マッサージ機でリラックスできたりと、体に良い設備が整っているほか、運動以外の楽しみも増えて続けやすくなります。